坂本拓磨(小鹿田焼)× 鈴木啓太郎(キャメルバック) 小鹿田と奥渋をつなぐモダンなマグが完成

坂本拓磨(小鹿田焼)× 鈴木啓太郎(キャメルバック) 小鹿田と奥渋をつなぐモダンなマグが完成

IEGNIMが送るコラボシリーズがスタート。第一弾は小鹿田焼・坂本拓磨氏と奥渋谷の人気コーヒースタンド「キャメルバック リッチバレー」の鈴木啓太郎氏とのトリプルコラボが実現。オーダーしたのは2種類のマグ。両氏に完成までのストーリーを伺いました。

坂本拓磨
現在計9つある小鹿田焼の窯元のうちの1つ「坂本浩二窯」にて、2013年より実父と共に作陶する。2015年に21歳で「日本民藝協会賞」を受賞。さらに2022年12月にも同賞に輝く。作陶生活10年を超え、さらなる活躍が期待される陶工のひとり。

鈴木啓太郎
商社やアパレル勤務を経てコーヒーの世界へ。2014年に『CAMELBACK sandwich&espresso』をオープンすると、東京を代表する人気店に。現在は、『Good good not bad』や『夏目坂珈琲』など、数多くのカフェの経営&プロデュースを手掛ける。

タイプの違う2種類のマグをオーダー

──(鈴木)啓太郎さんは、IEGNIMの創設メンバーであり、全国の窯元も巡っていらっしゃいますが、小鹿田にも行かれたことがあるんですよね。

鈴木啓太郎(以下、鈴木):そうですね。2022年だったと思います。焼き物のリアルな現場に行くのが小鹿田が初めてだったんです。自然豊かで良い意味で時代が止まっているような。関東の山村とはまた違う雰囲気を感じました。

坂本拓磨(以下、坂本):知人の方が連れてこられたのですが、その時はIEGNIMのことも知らなかったので、うつわ屋でもないのに、この方たちは何者なんだろうと不思議に思っていたんです(笑)。

二年ぶりの再会となった二人。IEGNIM代々木上原の店内にて。

── それ以来、IEGNIMでは拓磨さんのうつわを取扱いさせていただいているのですが、今回はトリプルコラボという形でオリジナルのマグを2種類作っていただきました。まず啓太郎さんから、「飛びかんな」や「刷毛目」で表現をしてほしいというリクエストがありました。それはやはり、これまでの拓磨さんの作品を見て、そういうイメージがあったのでしょうか?

鈴木:そのイメージはすごくありました。なので、拓磨くんっぽい表現っていうところだと「飛びかんな」かなっていうのと、個人的に「刷毛目」が好きなので、「刷毛目」で面白いことができたらやってみていただきたいなと思ってお願いしました。

ボウル型とストレート型の2種類。色は各2パターンの展開。

こだわり抜いたラテ向けのマグ

── そして一つはボウル型にして欲しいと。それはラテアートする時のことを想定してだったのですね

 鈴木:そうなんです。ラテアートって対流が起こらないとできないんです。フォームミルクを対流に乗せて、エスプレッソとの層を作っていくのですが、それが角がないとやりやすいんです。そういう意味で、ボウル型で仕上げていただきました。

 坂本:普段からもちろん使いやすさを意識して作っているのですが、どうしてそういった形にして欲しいのか。作る上で明確な理由を聞けることってあまりなかったんです。今回は、啓太郎さんから事前にそういった説明をしていただいたので、作りながらも勉強になりました。

 鈴木:入り口が広くて浅い、そして下がボウル型になっているカップって実はあまりないんです。スープボウルとかはあるんですけど、マグ型でこういう形になっているものはなくて。ラテアートに向いているものが欲しかったのでうれしいです。

要望通りの角がない形状のため対流が起こり綺麗なラテアートが施されている。

スリップウェアとラテアート

── 今日は啓太郎さんには実際にラテを注いでもらいました。そして拓磨さんにはその様子を見ていただきましたがどうでしたか?

鈴木:すごくいい感じでラテを注ぐことができましたね。

坂本:スリップウェアという手法があるのですが、白の化粧土で装飾するんです。僕はやっていないのですが、スリップウェアのうつわを作る所作が似ているなと思いながら見ていました。

鈴木:ラテアートって流れなんですよね。そこに味みたいなものが出たりする。確かに、ちょっと似てるところはあるかもしれないですね。

啓太郎さんによるリーフのラテアート。スリップウェアの模様を思わせる美しい流線

デザイン性と使いやすさのバランス

── それと取っ手の部分に特徴を持たせたいというリクエストもありました。

 鈴木:店のことだけを考えてしまうと、スタッキングしやすいとか、並べやすいほうが良いのですが、せっかくウチでやらせていただけるのであれば拓磨くんがやってみたいなと思うことを試してほしいなと思ったんです。

坂本:特徴を持たせようとすればどんな風にでもできるのですが、一番触れる部分なので、使い勝手も考えなければいけないというところで悩みました。中身を注いだら重みもあるので、持ち変えることも考えて。片手でも両手でもどちらでも使いやすいように親指を置いてもらうようなイメージでつけました。今回が初めての試みだったのですが、ピッチャーではないんですけど、そんなイメージも浮かべながら作ってみました。

 ── それは、やはり力をかけて持てるようにするためにですか。

坂本:そうですね、今回はそちらの方がいいかなと思いました。

鈴木:取っ手は後からつけるわけですよね。

坂本:そうですね。あらかじめ取っ手を付けておくのではなく、成形した本体に持ち手部分となる棒状の粘土を付けながら形を整えていくイメージです。バーナード・リーチもそうですがヨーロッパのやり方ですね。

鈴木:確かに日本のものにはついてないですよね。

坂本:日本には感覚として持つ場所を決めるっていう文化がないんです。ハンドルっていう文化はなかった。今回のような伸ばしてつける方法は民藝の中ではよく見られるのですが、小鹿田もバーナード・リーチが来て教えられたんだと思います。

小鹿田で制作される取っ手のデザインはイギリス人陶芸家のバーナード・リーチによって伝えられた。

IEGNIMならではの掛け分けを採用

── 柄についてはどんなイメージをお持ちだったのでしょうか。

鈴木:モダンな感じで仕上げていただきたいとお願いしたのですが、基本的にはお任しました。

坂本:モダンとはなんなのか悩みました(笑)。釉薬も悩んだのですが、黒と白がいいかなと。白い化粧を塗って、その上から黒釉をかけています。掛け分けについてはこれまでIEGNIMとダブルフェイスシリーズを作ってきたので、その流れを意識しました。

鈴木:もうひとつの、いわゆる一般的なマグのような形のもの。今回はストレートで作っていただきましたが、そういうのもよく作られるんですか?

坂本:マグというもの自体を小鹿田がずっと作ってきたわけではないので、父の代くらいからですかね。伝統の中にあったものではないので、いろいろなものを真似たり参考にしたりして作ってきているので小鹿田のマグといえばこれだみたいなものはないんです。その中でも今回のようにストレートなものはあまりないと思います。

カウンター越しに話すふたり。距離感の近さがキャメルバックの魅力の一つ。

コラボで見えた作り手と使い手の新しい形

──ありがとうございます。すでにキャメルバックでもお客さんに見ていただいていると思うのですがその反応だったり、できたものを見てあらためて感想をお願いします。

鈴木:民藝っぽいスタンダードなものではなくて、拓磨くんらしい新しいものが見てみたいと思っていたんです。本当に素敵なものを作っていただけたなと思っていて。手前味噌ですがうちの常連さんたちはかなり面白い方々がいるので、彼らが毎日拓磨くんのマグで飲んでいるのを想像するとワクワクします。これをきっかけにうつわの話とか拓磨くんの話とかできるといいなって思っていますし、それが想像できるものになっていると思っています。好きですね。

エスプレッソマシーンの上に置かれたマグ。キャメルバックの雰囲気にもマッチしている。

── 拓磨さんはどうでしたか

坂本:普段作ってはいるのですが、実際に使われている場面に立ち会うことってないので。今回、キャメルバックで使われているのを見て、もっとこうしたほうがよかったかなとか新たな気づきもありましたし、すごく良い経験になりました。

鈴木:うつわをセレクトして形がいいものを提供している店っていっぱいあると思うんです。でも実際に作り手の方がその場所でお客さんが飲んでいる姿を間近で見てもらう機会っていうのはこれまでなかったと思うので、今回はそういう新しい形になったかもしれないですね。拓磨くんがおっしゃっていたように、そこから新しいアイデアが生まれるかもしれないですし、作り手の思いも直接届けられるという意味でもよかったなと思います。

今日は、わざわざお店までお越しいただきありがとうございました。

坂本:今回実際に見ることができて次はこうしてみたい!と思う部分もあるので、これで終わるのではなく第2弾、3弾とアップデートさせて作ってみたいなと思いました。ありがとうございました。

奥渋谷のホットスポットとして多くの人に愛されているキャメルバックの前で。今回のコラボマグで提供してもらうことも可能。

 【IEGNIM ×坂本拓磨×キャメルバック トリプルコラボ マグ】

購入はこちらから
・ストレートマグ(白黒)5,500円
・ストレートマグ(黒白)5,500
・ボウル型マグ(白黒)5,000円
・ボウル型マグ(黒白)5,000円

 写真/藤井由依 取材・文/阿久澤慎吾 (Roaster) 

 

 

 

 

 

 

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